トップ / 研究ノート
承継の先で、
何が起きているのか。
中小企業白書と日本政策金融公庫の一次資料を、図番号まで確かめながら読み直しています。
数字には、すべて出典を付けています。出典を付けられない数字は、載せません。
ここに並ぶのは平均・分布・相関であり、個々の会社の結果を約束するものではありません。
数字が示していること
早く継いだ会社ほど、伸びています。
中小企業白書は、はっきりこう書いています。「売上高、利益ともに経営者年齢と負の相関があると考えられる」「経営者年齢が若い企業ほど新たな取組に果敢にチャレンジする企業が多い」。
いま社長が何歳か × 増収の会社の割合
出典:2021年版 中小企業白書 第2-3-10図(東京商工リサーチ「全国社長の年齢調査」2019年12月末時点)。原本は1歳刻みの全61区分で、上図は代表点を抜いたものです。
継いだときに後継者が何歳だったか × その後5年の伸び
売上高成長率(同業種平均との差)・承継後5年間の平均
39歳以下は、60歳以上の3.5倍でした。
出典:2021年版 中小企業白書 第2-3-44図(東京商工リサーチ「企業情報ファイル」再編加工。2010〜2015年に経営者交代を1回行い、その後5年間が観測できる企業)
継いだときに若いほど、新しいことに踏み出しています
承継時の年齢が30代以下の会社は63.3%、60代の会社は50.6%が、承継を機に新しい取り組みに着手していました(2023年版 中小企業白書 第2-2-27図)。白書は、その背景として「経営者年齢が若い企業ほど、試行錯誤(トライアンドエラー)を許容する組織風土がある」ことを挙げています(2021年版 第2-3-14図)。
つまり、これは年齢の話であって、年齢だけの話ではありません。渡したあとに、後継者が挑戦できる状態になっているかどうか。私たちがご一緒するのは、そこです。
承継時に減収だった会社も、承継後は同業種平均を上回っています(2021年版 中小企業白書 第2-3-46図)。渡してから、一緒に立て直せます。
渡す先も問いません。ご子息へ、社員の方へ、外からお迎えする——どの形でも、承継した会社は同業種平均を上回っていました(同 第2-3-45図)。
承継のあと、平均は
いったんマイナスに振れています。
これは、どこか特別な会社の話ではありません。承継した会社を集めて平均を取ると、同じ形が出てきます。最初の2年はマイナス。浮上は3年目から。差が開くのは5年目からです。
出典:2023年版 中小企業白書 第2-2-12図(同業種平均との差分。2008〜2012年に経営者交代を1回行い、その後9年間の売上高が観測できる企業)。「承継時」は起点として0を置いたものです。白書自身が「後継者が事業承継を機に新たな取組を行う際、成果が表れるまでこの期間がかかる」と書いています。
そして9年後には、
上と下へ大きく散らばります。
いまの数字は、平均の話です。承継した会社を1社ずつ並べると、年数が経つほど、上と下へ散らばっていきます。
出典:2023年版 中小企業白書 第2-2-13図(事業承継経過年別に見た、売上高成長率の分布)。白書の12区分を5つにまとめたものです。「大きく」は白書の区分 +0.3以上/-0.3以下。
1年後の時点では、上へ行く会社と下へ行く会社がどちらも3.5%で、まだ区別がつきません。分かれてからでは、遅いのです。
業績の差と強く関連していたのは、
新しい取り組みの有無でした。
承継を機に、後継者が新しいことに取り組んだかどうか。それだけで、そのあとの業績はここまで変わります。
小企業(従業員19人以下)
業績が改善した会社の割合 n = 2,064 / 251
中小企業(従業員20人以上)
業績が改善した会社の割合 n = 2,016 / 58
出典:日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の事業承継に関するアンケート」/鈴木啓吾「事業承継を機に後継者が経営革新を果たすためのポイントとその効果」日本政策金融公庫論集 第29号(2015年11月)図-2。「新しいことに取り組んだ」は同論文の「経営革新に取り組んだ」。小企業では、業績が良くなった会社の割合が 17.5% → 43.8%。2.5倍になります。
社内の信認の有無でも、
差が出ていました。
「新しいことを始めよう」。そう決めた会社が、みな同じように伸びたわけではありませんでした。社内が後継者を認めているかどうかで、結果が変わります。
承継後、売上の伸びが業種内で上位に入った会社の割合
出典:2023年版 中小企業白書 第2-2-35図(従業員からの信認状況別及び事業再構築の取組状況別、売上高年平均成長率の分布)。数値は「高」+「やや高」の合計。「信認を得ていない」には「どちらとも言えない」を含みます。
この結果から、私たちは信認づくりを先に置いています。データが示しているのは分布の差までで、順番そのものの因果までは示していません。そのうえで現場での実感とも重なるため、1+3ヶ月をこの順番で設計しました。
研究ノート
根っ子学とは何か。
承継で渡されるのは、株式と資産と役職です。けれど会社を動かしてきたものは、それだけではありません。創業者の判断の癖、譲れないもの、口に出されないまま社内に効いているもの。それらを見える形にして、次の世代へ渡せるようにするための体系が「根っ子学」です。
人には、根っ子がある
行動の下には、本人も気づいていない判断の型があります。創業者の場合、それが会社そのものの型になっています。
光と影は、対で動く
強みとして働いてきたものと、承継を止めているものは、しばしば同じ根から出ています。片方だけを取り除くことはできません。
気づく順番を、設計する
指摘された側に負担がかかると、対話そのものが止まります。気づいていただく順番を設計することが、この体系の中心です。
診断としてデジタル化しています
この見立てを、経営者ご自身が短時間で受けられる形にしたものが「10の問い」と「第二創業ナビ」です。先代・後継者・ご家族・幹部の方が別々に答えると、答えの差そのものが承継の現在地になります。
学会発表の報告
根っ子学による経営者の潜在意識の可視化
── デジタル化: 事業承継への応用を中心に
2026年8月30日(日)、実践経営学会にて発表しました。発表者は藤井 薫(根っ子学提唱者・株式会社大和製作所 創業者)。
発表の骨子
- 問い 創業者の内面は、承継できる資産として扱えるか
- 方法 経営者の潜在意識を類型として捉え、可視化する
- 応用 その可視化を診断としてデジタル化し、事業承継の現場で使う
- 結語 木は、実を残す。人は、根っ子を残す
この研究が、実務のどこに効くか
承継が止まる原因は、株価やスキームより手前にあることが多く、そこは従来、経営者ご本人の資質の問題として片づけられてきました。類型として扱えるようになると、「誰が悪いか」ではなく「どこで止まっているか」の話にできます。私たちが現場でしているのは、まさにこの置き換えです。
はじめの一歩
数字ではなく、御社の現在地を。
ここまでは、全体の話です。御社がいまどこにいるのかは、10の問いで3分で確かめられます。